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「2018年度卒業式・学位授与式」を挙行しました。

2019年3月21日(木)、「2018年度卒業式・学位授与式」を挙行しました。今年度は卒業生718名、大学院修了生38名が本学を卒業・修了しました。ウスビ・サコ学長は式辞で、「社会を変革することを心がけてほしい」と卒業生に激励の言葉を述べました。
ウスビ・サコ学長
また、同窓会「木野会」会長の山田隆様より祝辞、卒業生代表でデザイン学部イラストコースの櫻井隆成さん、マンガ研究科博士前期課程の戴 宜枫さんより「卒業生の言葉」が述べられました。
「木野会」会長 山田隆様
デザイン学部イラストコース卒業 櫻井隆成さん
マンガ研究科博士前期課程修了 戴宜枫さん
また、今年度退職される教員として、マンガ学部の篠原ユキオ先生、人文学部の板倉豊先生、中島勝住先生に同窓会「木野会」より花束が贈呈されました。
あわせて開催された「京都精華大学展2019表彰式」では、学長賞に芸術学部陶芸コースの野田ジャスミンさん、マンガ学部ストーリーマンガコースの坂本若菜さん、人文学部の原田雅章さん、理事長賞にデザイン学部デジタルクリエイションコースの地下英理さん、ポピュラーカルチャー学部の音楽コース西健太さん、芸術研究科博士前期課程の髙畑紗依さんがそれぞれ表彰されました。
卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんの益々のご活躍とご健勝をお祈りいたします。

2018年度京都精華大学 卒業・修了式学長挨拶

みなさん、ご卒業・修了おめでとうございます。
 
本来なら、式辞の冒頭には季節の挨拶をしますが、私が生まれ育ったマリ共和国では四季がなく、挨拶の仕方に戸惑うことがあるので、省略をいたします。
 
本日は私が昨年の4月、学長に就任してから初めての春の卒業・修了式です。学長になって1年足らずですが、この間に多くのことを学ばせていただきました。常にアンテナを張り、周りの情報を集めることに努めてきました。これらの経験をもとにみなさんへの言葉を、おくりたいと思います。
 
さて、みなさんは本日の卒業・修了をもって、京都精華大学の理念を体現し、身体化したことになります。みなさんは明日以降も、京都精華大学の共同体の一員として、批判的観点から物事を捉え、自らの価値観で行動し、世の中の表面的な変動には左右されない人間に成長していくはずです。
 
昨今、新自由主義の台頭により、社会は競争原理の下で急速に変貌しつつあります。市場主義とグローバル化の拡大、また技術の進歩によって、社会はますます多くの選択の余地を各個人に与えてきました。みなさんは、これからもそのメリットとデメリットを各自で判断し、正しい道を歩んでいかなければなりません。
 
京都精華大学の初代学長、岡本清一は、「大学は学問と教育と深い友情とを発見する場所である」と述べています。また、京都精華大学の学位授与方針と教育課程の編成・実施方針では、それぞれにおいて、学問と教育だけではなく、「友情」が重要な柱として定められています。京都精華大学には、世界中から「個性」のあふれる多様な学生が集まっています。そのみなさんは、ともに文化・芸術を学び、深い友情を培い、世界をより良い居場所にするため、協働できる人間へと成長してきました。大学共同体の構成員としての自覚の下、各自が明日へとつながるビジョンを、友人たちとともに創り上げてきたことと信じています。そして、わたしたち教職員もまた、「愛情」をもって一人ひとりと向き合い、みなさんが主体的に「自由」を確立するためのお手伝いをしてきました。
ここまで出てきた幾つかのキーワードについてもう少し説明をしたいと思います。
 
まずは友情についてです。私自身は、はじめは生まれ育ったマリ共和国で様々な学校に通い、さらに中国の大学、日本の大学でも勉強をした経験があります。今でも学校で出会った友人たちの多くと連絡を取り合い、世界のどこに行っても、すぐに彼らを頼ることができます。当然、向こうも私が必要な時にはいつでも連絡をしてきます。日本に住んで約二十八年間になりますが、私が困った時、本当に助けてくれるのは誰だろうか?家族が困った時、真剣になって相談に乗ってくれるのは誰だろうか?と考えて思い浮かべるのは、やはり高校、大学や大学院の時、一緒に行動し、苦労し、多くの秘密(complicité)を共有してきた友人の顔です。アフリカでは、友人との信頼は次のように解釈します。「困難を分かち合い、喜びを共有することができれば、私たちはその友人に信頼を寄せ、誠実になることができる。相手が泣いている時に泣き、喜んでいる時に一緒に喜んであげることができなければ、信頼できる友人とはみなされないのである。」
 
次は自由についてです。この一年間で私が成長したと思える出来事が幾つかあります。その一つは大学の授業で学生から寄せられたコメントと様々な外部の有識者との懇談によるものです。私が担当している授業の中に「自由論」があり、そこにはたくさんの学内外の有識者をゲストとしてお招きしています。この授業の初回と最終回あたりで、学生たちに、あなたにとって「自由とは何か」「自由の条件とは何か」と尋ねました。ちなみに、この授業を受講しているのは、主に1年生と2年生です。初回の回答では、「好きなことができる」「思いのまま行動する」などなど、自分の身体的な「自由」と、自分だけの欲求を満たす「自由」が多く挙げられていました。また、そうした「自由の条件」としては、「大学が授業を緩和すること」「スクールバスの本数を増やすこと」「学内のルールをなくすこと」「個人の行動可能な場所を増やすこと」「みんなのトイレを増やすこと」といった回答が大半でした。ところが、授業の最後の方に同様の質問をした時には、「自由は実現不可能」「自由には希望がない」「話を聞けば聞くほど自由の存在を信じなくなった」など、非常に消極的な意見が多く寄せられました。
 
さて、この授業の最後のゲストには人文学部の客員教授の内田樹先生を、お招きしました。事前打ち合わせで、内田先生にはさきほどのような学生たちの変化を伝えました。先生の学生に対するコメントは、学生諸君が自分たちで自分たちを不自由にしているにちがいないというものでした。さらに、本学にありがちな事柄ですが、自分で肯定する「個性」、あるいは「自分らしさ」というお題目も、みなさんを不自由にしているとコメントされました。そして、個性にあふれた作品や文章を作ることを意識しすぎると、いい作品は絶対にできないのではないか。本当の個性というのは、「自分では意識していない内面が他者から見ておもてに表現されたもの」であって、自分が意識する個性や「らしさ」というのは、自分をよく見せたくて、それゆえ自分をコントロールして無理にこしらえたものではないかと、先生のコメントからそう理解しました。
このことばを別解釈すると哲学者のニーチェの次の言葉にも通じます。「合理性ばかり追求し心の余裕をなくし、人間らしい事柄をも無駄だと見なしていると、結局は人生そのものを台無しにする。」
 
「自由」とは、個々人が自分の価値観で物事を選択できるようになることです。しかし、懸念が一つあります。「自由」の怖さ、自由の難しさ、自由に伴う責任です。この頃、ニュースでもよく観られますが、「自由」だから他人に傷ついてもいいとか、「自由」だから社会を無視して好き勝手に行動できると思ってしまうことです。他人の自由を束縛するまで行動することは無責任な判断で、決して許されない「自由」の捉え方であります。
 
みなさん、誰のため、何のために大学で四年間、さらに大学院を修了される方であれば二年、あるいは五年以上の時間を費やしてきたのでしょうか?それはおそらく、社会のためでも、家族のためでもないと思います。また、他の人のためでもないはずです。これから出ていく社会の中に自分の立ち位置を確立し、そして自分の進むべき道を見つけるためだったはずです。であれば、今日この日、みなさんは自分と真剣に向き合い、自分が何者で、どのような価値判断を下す人間なのか、様々な活動、試行錯誤、失敗と成功から学んだ内容を通して確認できていると思います。意識せずにこの価値判断を下すことができる、そのことがみなさんの「個性」であり、この大学でみなさんが手に入れた「自分らしさ」であって、それこそがみなさんを「自由」にする道やツールなのです。これは頭で考えて実現できるものでもないし、実現しようと計画できるものでもないかも知れません。みなさんがこの大学で獲得した「個性」「自分らしさ」「自由」は、その場その場で発揮しようとしてできるものではなく、長い年月を通して身体化したものであり、これからもみなさんを進化させる原動力になります。
 
みなさんは、これから夢と希望を持って未知の社会へと旅立ちます。社会に使われるのではなく、社会を変革することに心がけていただきたいと思います。様々な困難に直面するかもしれませんし、失敗もするかもしれません。しかし、それを乗り越えられれば、さらなる成長を成し遂げることができるはずです。これから、予想もできない様々な課題に直面した時、耐えられる範囲で、自分が納得できるまで、乗り越えてください。そのような努力や経験がきっと次のステップにつながり、自分を強くしてくれるはずです。
 
本日、皆さんがめでたく卒業、修了できたのは、卒業・修了要件の単位を揃えただけではなく、みなさんの日々の生活と出来事の蓄積、学問と深い友情とを発見したたまものだと信じています。
 
京都精華大学で時間を過ごした者同士のあいだには、きっと深い友情が培われているにちがいありません。さらにこの人間形成を成し遂げた場所である京都精華大学は、みなさんにとってのゲマインシャフト、つまり友情に有機的な社会集団とも言えるでしょう。この大学は一人一人の汗と涙、悲しみ、笑いと喜びによってできた空間です。みなさんがいつでも帰ってこられる「故郷」だと思ってください。
 
最後になりますが、南アフリカの元大統領で、人権活動家であったNelson Mandela氏の二つのことばを贈りたいと思います。
1.「自由」であることは、自分の鎖を取り除くことだけではありません。それは他人の「自由」を尊重し、強化するように生きることです。
2.行動を伴わないビジョンは単なる夢です。 ビジョンのない行動は単なる時間の無駄です。ビジョンに支えられている行動は世界を変えることができます。」
 
みなさんは、この世界を変革する人間になれると思います。
 
Aw ni baara ! Aw ni seguèn!
K’an bèn sòòni ! Ka nyògònye nògòya !
 
以上、私の挨拶とさせていただきます。
卒業、修了おめでとうございます。
 
2019年3月21日
京都精華大学・学長
ウスビ・サコ
 

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