体幹教育 TAIKAN' Basic Art Education

ART

新カリキュラム「体幹教育」で身につく力。

芸術学部のカリキュラムの特徴は「2年進級時に希望の専攻を選べる」ことです。入学して1年間は、専門性に閉じるのではなく、領域を横断的に学ぶ教育機会を重視。ものの見方を多角的にとらえる機会を増やし、自分では気づかない適性や可能性の発見と、一人ひとりにあった専門選びができます。
1年次の共通教育の柱のひとつが「体幹教育」。「体幹」という言葉が身体の胴体部分を指すように、表現者にとっての「土台」となる観察力や思考力、想像力などを鍛えるプログラムです。「つくる」ことだけに傾倒してしまいがちな芸術教育において、表現の根底にある考え方や心の持ちようを学びます。それは、社会という集団のなかで芸術の力を役立てる際に、専門分野という枠を超えた「共通言語」として必要になる力です。

身につく力

  • 「つくる」だけではなく、観察力や思考力、想像力を鍛え、表現の根底にある「考え方」をやしなう。
  • 専門領域外の学生とクラスを組み、ユーモアあふれる手法で、絵画・工芸・彫刻・デザインの基礎を学ぶ。
「体幹教育」では、学部の1年生を約25人のクラスに分けます。1年間を「視覚のクリエーション」「素材のコンビネーション」「対象のトランスレーション」「表現のバリエーション」の4期に分け、「実践」と「思考」を繰り返し、表現の可能性を模索することに主軸をおいた課題に取り組みます。専門領域を学ぶ「メチエ基礎」とは、異なるクラスに所属するため、領域にとらわれずに学生同士の交流を促す目的もあります。

こんな授業を行なっています。

たとえば、1期の「視覚のクリエーション」では、鉛筆・木炭・コンテだけでなく、墨や珪藻土など、さまざまなタイプの素材に挑戦し、視覚情報をコントロールし、絵画表現に落とし込むための課題に取り組みます。風景などの対象を大づかみに素早く捉える、時間をかけて納得のいくまでじっくり描く、徹底的にディテールを描き込むなど、目的をもって思考しながら表現の幅を広げます。


ディティールの観察

手のひらサイズの自然物を拾い、手で触る、匂いを嗅ぐ、ルーペを覗いて拡大するなど、細部をじっくり観察。個々の感覚を大切に、自由な画材や表現方法で描き、さらにその魅力を言葉に置き換え、ペアとなる他者に伝えます。

古壁の風合いの表現

古くなった壁の風合いを制作する課題。フィールドワークを行い、古壁の観察やスケッチ、フロッタージュなどを通してイメージをつくり、それをもとに着色したり、引っ掻いたり、素材を重ねたりして、実際にオリジナルの古壁づくりを行います。

講評・プレゼンテーション

1年生のうちから、相手に作品の意図を伝えることを重視。「視覚のクリエーション」では、学年全員が集まり、成果物を並べ、自分のプレゼンテーションだけでなく、互いの作品についても語りながら講評を進めるスタイル。クラスを越えて全員の作品や発表を見ることで視野を広げます。

指導教員

中野祐介(共通教員/体幹教育担当)

…2003年よりアートユニット「パラモデル」のメンバーとして活動。2017年、芸術学部教員に着任。

僕自身、作家活動を続けてきて思うのは、職人的な専門性はもちろん必要なんですが、発想の視点を最初から柔らかく開いておくことも、とても大事だということ。体幹教育で扱っているのは、そういった創造の土台にあるべきものです。僕はパラモデルという2人組で活動してきましたが、 学生の頃は自分は日本画で、相方はメディアアート系の専攻。だから、同じテーマを考えても2人のアプローチの仕方が全然違い、それが面白みにもなっています。専攻で壁をつくっていたら、今の作家活動は成立しなかっただろうし、領域を横断していくことってすごく重要だと実感しています。

中村裕太(共通教員/体幹教育担当 )

…「民俗と建築にまつわる工芸」という視点から、陶磁器、タイルなどの学術研究と作品制作を行う。2017年、芸術学部教員に着任。

僕が精華大に入学したのは16年前。陶芸専攻でしたが、映像作品をつくったり、巨大なわら半紙に墨絵を描いたりとか、かなり領域横断的なことをしていました。教員として戻って来て、あの頃に通じる自由な雰囲気を感じています。体幹教育というのは、「つくること」と「考えること」のバランスを整える訓練だと思っています。スポーツ選手が「体幹トレーニング」を通して、コンディションのバランスを取るように、ディスカッションや専門外の表現に挑戦することで、ふだん動かしていない思考を使い、作品を制作するためのリズムなりバランスを整えたいと思っています。

宮永 亮(共通教員/体幹教育担当 )

…ビデオカメラでとらえられた実写映像素材を幾重にも重ねた手法を用いて作品制作を行っている。2017年、芸術学部教員に着任。

僕の学生時代にも、体幹教育のように、広く創造性を引き出すようなカリキュラムがあったんですけど、僕自身は結構反発していたんですよ(笑)。自分の興味をより深めるための専門教育を早く受けたいという気持ちがあったんですね。けれど、専門的な仕事も人工知能に置き換わっていくと言われているなかで、専門技術を研ぎ澄ませていくだけでは、これからの時代は多分やっていけない。体幹教育で学ぶような、表現の根底や創造の起点になるような考え方を鍛える必要があります。学生たちには、今すぐ必要性を感じないかもしれないけれど「時間差で効いてくるぞ」と伝えています。

「体幹教育」以外の新カリキュラムもスタート。

2017年度、芸術学部はカリキュラムの大改革を行いました。これまで受験時より7つのコースに分かれていた学部構成を再編。表現者にとって大切な観察力、思考力、創造力、コミュニケーション力などをやしないながら、専門領域への導入を図ることで、自身の専門性をより深めたり、新たな表現の可能性を発見したりすることが期待できます。

学生25人に教員3人の「基礎ゼミ」を開講。

隔週で開かれる「基礎ゼミ」では、学生一人ひとりの制作や受講している授業の状況などを共有しながら、グループディスカッションなどを展開。教員やクラスメイトとの対話から「コミュニケーションしながら学ぶ」ことを身につけます。専門性を横断して、自由に行き来するカリキュラムだからこそ、基礎ゼミがホームルーム的な役割を担って学生をアシストします。

7つの専攻の基礎授業を自由に選択できるプログラム。

芸術学部1年次の共通基礎授業として「メチエ基礎」プログラムがはじまりました。メチエとは、経験によって培われる技や芸術家がもつ表現技法のことです。1年次に、芸術学部に属する7つの専攻のうち、最大4つの専攻のプログラムを選ぶことができ、さまざまな工房や素材に直に触れることができます。各自の適性にあった専門領域を探すことができます。