学長からのメッセージ Message from the President

ABOUT SEIKA

自分と出会い、表現をはじめよう

「表現する」というのは、絵を描く、形ある物をつくる、デザインするといったことばかりではありません。自分の頭や心の中にあることを外に示し、「わたしはこんな考えや好みを持つ人間だ」と、なんらかの方法で他者に伝えること。そのすべてが表現行為と言えます。たとえば、好きな服を着ることも、影響を受けたマンガや音楽について語ることだって、表現なのです。
表現を通じて世界を変える学生を育てたい。わたしたちは日々そう考えていますが、「世界」にも大小さまざまなスケールがあります。いきなりグローバルな、地球規模の変化は起こせません。まずは自分自身、次に学校や身近な友達関係の中で小さな気づきと変化が生まれる。それがたくさんつながり、影響を与え合い、やがて社会へと広がっていくのです。
いまは確かに、先の見えない時代です。新型コロナウイルス禍で、若い人たちにも不安が広まっているのを、学生と話していても感じます。「リモート授業をひとりで受けるのは心配。でも大学での対面授業も、周りの人とうまくやっていけるか不安」という声もありました。けれども本来、大学は他者と出会い、関わり合うことで、異なる文化や価値観を発見する場所です。そして自分自身と向き合い、自分を確立していく場所です。表現にとって大切なのは、考える主体となる自分自身を確立すること。社会に対して疑問を持つこと。そして、変化を恐れないことです。
少し前に、「二つ以上のことを質問されると泣いてしまう」学生がいました。それぐらい自己表現が苦手だったのですが、フィールドワークでわたしの祖国マリ共和国に行ったことをきっかけに、彼女は大きく変わりました。言葉や表情で、授業やワークショップで、あるいはダンスで、のびのびと自分を表現するようになったのです。もともと彼女の内面には積極性があり、表現欲求もあったのに、「この子は自己主張しない」「おとなしいキャラ」という周囲の視線に合わせ、自分を抑え込んでいたのです。マリに行くと、彼女をそんな目で見る人はいないし、伝えたいテーマにも出会えた。だから、本来の自分を表現できたのです。
みなさんと話していると、とてもまじめだと感心する一方で、今ある日常生活や社会がずっと続くと信じたい人が増えている気がします。中東の内戦や民族問題を取材するジャーナリストの講義では、「なぜわざわざそんな危険な場所へ行くのか」と問い、「自由には、自立や自治がともなう」と言われれば、「それなら自由なんていらない」と言う。現実を直視すれば自分にも責任が生じる。今の生活や価値観を変えないといけなくなる。だから余計に、社会は変わらないと思い込んでいるのかもしれません。しかし、今後もグローバル化は進み、世界は確実に変わっていきます。学び方も、仕事や働き方も、生き方や価値観も、みずから考え、切りひらいていく時代です。京都精華大学は、そのための知識との出会い、体験の機会が豊富にある場所です。
みずから開拓していこうとするみなさんを、私たちは応援します。失敗しても大丈夫ですよ。何度やり直してもいいのだから。あなたの表現には、世界を変える可能性があるのです。

ウスビ・サコ Oussouby SACKO

京都精華大学人文学部 教授
学長任期 2018年4月1日~2022年3月31日

マリ共和国で生まれ、中国・北京語言大学、南京東南大学を経て来日。2001年より本学教員。バンバラ語、英語、フランス語、中国語、関西弁を操るマルチリンガル。『空間人類学』をテーマに、学生とともに京都のコミュニティの変容を調査したり、マリの共同住宅のライフスタイルを探るなど、国や地域によって異なる環境やコミュニティと空間のリアルな関係を研究。暮らしの身近な視点から、多様な価値観を認めあう社会のありかたを提唱している。

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